神の子からレジェンドへ
心を揺さぶる時間と、涙が出るほど愛する場所。
フットボールがここにあって良かったなぁと心から思う。
DE NIÑO A LEYENDA
神の子からレジェンドへ
今日は、34歳の世界的フットボーラー、Fernando Torresにとって、11歳の頃から育ったAtlético de Madridでの最後の試合。
まるで映画のタイトルのように、スタジアムの前には横断幕が飾られ、F.TORRESの背番号の歴代ユニをまとったファン達が立ち止まってはシャッターを切る。
マドリード出身のフェルナンドは、その身体能力を買われ、アトレティコユースに入団。少年は”El niño -神の子”と呼ばれ、多くの人から応援されるようになった。
名実ともに成長した若き才能は、英国プレミアリーグの強豪リバプールから声をかけられ、「アトレティコにお金を落としたい」と渡英を決意したと聞いたこともある。
ルックスも申し分ない超人気プレーヤーながらも、幼馴染と結婚した事実が表すように?彼の人柄は誰からも愛されるんだろうと、あのスタジアムの空気が教えてくれたように思う。
それでも今、チームを出ていかなければいけないのは、彼の愛するチームが、ビッグクラブになろうとしているから。それはきっと彼の望みでもあったけれど、少し皮肉な話かもしれない。年老いたプレーヤーは退かなければいけない。それがこの厳しい世界の常である。世界のトップで戦うには一般人から想像できない精神が折れるような苦しみもあるはずだ。
今回もまた、退団は愛するチームのためであるかもしれない。
今日もしっかり2点を決めて最後の挨拶とした。2点目はキーパーとの間に走ったボールを自分のものにして、なんだか、らしいゴールなのかも。
ユースの時に声をかけた恩師がピッチに登場。あの時、この契約書にサインした時から、物語が始まった。ゴールネットを幾度となく揺らした彼のゴール達は、このファン達の心を揺さぶってきた。街を代表して、スペイン代表を優勝に導いたこともあった。
それでも彼は、アトレティコに復帰したとき多くのファミリーが待っていたスタジアムの方が感激をしたと語ったこともある。
その幼少時代から、人々に語り継がれるゴールたちの映像に、スタジアムにいた何万人もの人は拍手を送り歌い、涙する。俺たちのフェルナンドと共有した数々の感動が、ファン達の目を潤し、メインスタンドの隙間から差し込んだ夕陽に照らされてとてもとても美しい。
ピッチにはファンのメッセージが集められた巨大なユニフォームが登場し、風船に吊り下げられた幕の前で10分間、フェルナンドが家族やチームメイト、お世話になった人ひとりひとりに感謝を述べる。
マイクが響きすぎてスペイン語が聞き取れないし、バックスタンドの観客はその幕でトーレスが見えない。夜のカンプノウでのイニエスタ送別と比べると安上がりで雑だと思ったが、それもまた血が通っていて愛らしい。
1人の才能を持ったNIÑOは、自らの努力と仲間の助けが創った栄光の軌跡によって、今日、正式に、LEYENDAになった。
彼の名前が刻まれたプレートが、新しいスタジアムの外に埋め込まれた。最愛の選手の最後を見届けた子供達は、何十年後に、このプレートを見て子供や孫達に伝えていくんだろうな。
サッカー文化とは、まさにこんなことである。
誰かが去っても、また次のシーズンが始まり、スタジアムはいつもここにあって、俺たちのチームと仲間はここに集まる。
愛に満ち溢れたワンダメトロポリターノ。
このスタジアムの魅力は、中国資本が作った新しくて快適な観戦環境でも整ったピッチではない。
止まることのない愛情と家族のような赤と白の温かさである。昔からここにあった空気とビセンテカルデロンに染み込んでいた汗とかシミのようなものをまた年月をかけてここに残そうとしている。
なんだかんだで意図もせずアトレティコの試合を見たのは3回目。
彼らはいつも教えてくれる。
“Coraje y Corazón” 勇気と心
なんだかまた忘れられない試合が増えたなぁ。
試合自体はなんてことのない消化試合だけども、ここで感じたものは尊いものだった。
ここにアトレティがあることが幸せだなと思いながら、メトロに揺られて帰途につく。
ひろみさんに頂いたおいなりさんと、VIP席でふるまわれた食べかけのパンとともに。